Vol. 18 佐藤正裕さん(八王子スポーツ整形外科)
〈プロフィール〉
さとう・まさひろ/1980年生まれ。「八王子スポーツ整形外科」リハビリテーションセンター統括。理学療法士、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー。「八王子スポーツ整形外科」では、内視鏡手術で定評のあるスポーツクリニックのリハビリ部門の統括を務め、併設のメディカルフィットネスの部門でもアスレティックトレーナーとして現場にあたっている。
インタビュー前編はこちら
だましだましでは良くならない、長引く「ヒザ痛」。
この原因は、「ヒザのねじれ」だった!
教えてくれたのは、ヒザのケガ治療の専門家集団、東京・八王子の
「八王子スポーツ整形外科」で、リハビリ部門を統括する佐藤正裕さん。
積年の「ヒザ痛」を解消すべく、自分でできるマッサージと
運動前後の「悪グセ」直しのセルフケア、予防エクササイズも紹介してくれた。
ヒザのねじれを解消し、“健脚”を取り戻そう!
今回は、いよいよ話の核心=ヒザ痛の治し方!
体調やメンタルにも左右される“だましだまし”では、根本的な解決になっていないことは、賢明な読者であれば、すでにお気づきのはず。
そこで、ヒザ治療の専門家集団「八王子スポーツ整形外科」で、リハビリ部門を統括する佐藤正裕さんに、解消法を伺うことにした。
「転倒したり、ひねったりして、ヒザが腫れているのであれば、安静にして、氷水などでアイシングを行い、患部を適度に圧迫した上で、心臓よりもヒザを高く掲げ、腫れを抑えます。これはケガの急性期の応急処置となります。でも、ジワジワとした慢性のヒザ痛には、この方法だけでは、あまり効果が出ません」
そのような場合、ヒザの関節の動きをスムーズにする処置を行うという。
「ヒザの関節は、実は、2つあります。ひとつは、モモの骨とスネの骨で作られる関節。もうひとつは、モモの骨とお皿で作られる関節です。クリニックでのリハビリでも、この2つの関節の動きを整えて、痛みを軽くしていきます」
ジワジワ「ヒザ痛」に効く、お皿の周りのセルフマッサージ!
「ジワジワとヒザ痛がある人は、ヒザのお皿の周りの脂肪(膝蓋下脂肪体)が、炎症を起こして硬くなる傾向があります。そこで、お皿の動きを良くするマッサージを行います」佐藤さんが教えてくれた、セルフでできるマッサージの方法は、次の通りだ。
まず、脚を伸ばして座った楽な姿勢から、手の指でお皿を上下、左右に滑らかに動かしてほぐす。
次に、お皿の下の脂肪組織そのものを、軽く圧迫してほぐしてゆく。
「脂肪組織は、ヒザのお皿の下の膨らみの部分です。ヒザを伸ばすと膨らみ、曲げると、関節内の空間に引っ込みます。この脂肪自体を、指の腹で軽く圧迫しながらほぐします」
何とカンタン! さっそく試してみよう!
左右、上下に滑らかに動かす
お皿の下の脂肪組織は、伸ばした際に膨らむ部分だ
脂肪組織そのものも、圧迫しながら軽くほぐす
運動の前と後に、カラダの「悪グセ」をリセット
「前回、ヒザ痛の原因となる、普段の生活で行いがちな“悪グセ”を紹介しました。座り方や、階段下り、立ち座りの際などに、“ヒザが内側に入ってしまう”クセですね。このような“悪グセ”を放置せず、日ごろから、セルフケアで取り除くことも大切です」
お皿のマッサージ加えて、佐藤さんが教えてくれたのが、後ほど詳しく紹介する「3ステップ『悪グセ』直し」だ。
「ヒザの『悪グセ』直しは、3ステップで行います。一連のケアによって、ヒザを伸ばす動きが矯正されます」
「前回ご紹介した『ヒザ痛、危険チェック』で分かった、弱点側のヒザに行ってください。運動の前、そして運動後にケアして、“悪グセ”をリセットしましょう」
(※「3ステップ『悪グセ』直し」の詳細は、最後に紹介します)
ヒザのねじれは、お尻の弱さから起こる!?
ネットで「ヒザ痛」を検索すると、モモ前やモモ裏の強化を指摘する記事が目立つはずだ。
「モモの前側の“大腿四頭筋(だいたいしとうきん)”や、モモの裏側の“ハムストリング”を鍛えることで、ヒザ周りは、確かに強くなります。でも、それだけでは足りない可能性があるのです!」
佐藤さんが指導するのは、お尻の筋肉強化だ。
「カラダの動きを含めて、総合的に診る必要があります。そこで注目すべきなのが、股関節やお尻の筋肉です。これらの筋が弱いと、ヒザを曲げる動作で、ガクッとヒザが崩れることが分かっています。お尻の筋肉をしっかり鍛えれば、立ち座りが真っすぐできるようになり、ヒザへのストレスを減らすことができます」
ヒザ痛の予防に効果大のお尻エクササイズは、たったの3つ。
こちらも、最後にまとめて紹介しよう!
信頼できる、整形外科の探し方
スポーツ整形にかかっても、ジワジワとしたヒザ痛は治らない……。
そんな風に自分で判断して、病院に行かない人は多いという……。
「ジワジワとしたヒザの痛みが、1回の治療で完全に治ることは、ほぼありえません。今まで説明したように、ヒザの動きの“悪グセ”や機械的なストレスで、ヒザ痛が長期化している可能性が高いからです。これらを治すには、ヒザへのストレスを減らすご本人の努力と、ある程度の時間が必要になります」
佐藤さんは、信頼できる整形外科を選ぶポイントのひとつに、リハビリの施設の有無を挙げている。
「自宅から通いやすいのは重要ですが、クリニックにリハビリ施設がある点も、大切だと思います。電気治療や温熱治療は、痛みを和らげる手段として有効ですが、あくまで対症療法です。痛みが出るようになった理由を、しっかりと見つけて解決しないと、根本的な治療にはなりません」
佐藤さんは、何よりカラダの動きのチェックを重要視している。
「カラダの動きをチェックしてくれる、身近なスポーツトレーナーや治療家に相談するのも良いと思います。当院のフィットネスでも、鍼やマッサージを併用しながら、痛みを取って、動きを変えてゆくように指導しています。自分に合った先生を探す際の、参考にしていただければと思います」
トレーニング前後に行う、ヒザケア3ステップ
ヒザ裏の緊張をほぐし、「下腿の外旋」を矯正し、ヒザに力を入れやすくするための3つのステップ。「ヒザ痛、危険度チェック」の片脚スクワットで分かった、弱点の脚で行う。日々のトレーニングの前後に行おう!
Step1「ヒザ裏ほぐし」
ひざ裏の圧迫ポイント
ヒザの裏側に手を回し、モモ裏から伸びるスジと、フクラハギから伸びるスジが手を繋ぐように合わさる部分を圧迫する。この状態から、ヒザをゆっくり曲げ伸ばしたり、足首をゆっくり上下に動かしたりして、ヒザ裏をほぐす。3分程度行いたい。
Step2「スネの内旋エクササイズ」
ヒザの曲げ伸ばしが楽になってきたら、スネが外に向き過ぎた「下腿の外旋」を修正。ヒザを90度程度に曲げ、つま先を少し上に向ける。その状態で、モモの骨に対して、スネの骨だけが回転するよう、外側から内側へ動かす。特に内側への動きを意識する。20回×2セット程度行おう。
Step3「モモのセッティングエクササイズ」
ヒザ痛に関係の深い、モモの内側の筋肉(内側広筋)に効果大となる「押しつぶし(セッティング)」。ターゲットのヒザを伸ばし、ヒザ裏を地面に「押しつぶす」意識でモモの前の筋肉に力を入れ、5秒キープ。やりにくければ、ヒザ裏に軽く丸めたタオルを入れると意識しやすくなる。20回×2セット程度。
ヒザ痛予防に効く、お尻トレーニング!
仕上げに、ヒザ痛予防に効く、カンタンなエクササイズを3つ紹介する。いずれも20回×3セット、週に2回を目安に取り組みたい。
➀ヒップリフト(大殿筋)
仰向けに寝て、両ヒザをしっかりつけたまま、90度に曲げる。両手で地面を押さえ、下腹部に力を入れる。そこから、お尻を持ち上げ、胸を張ってカラダを一直線にする。3秒キープしたら、元に戻す。お尻の外側が硬かったり、弱かったりすると、両ヒザが離れるので、離さないように意識する。お尻を包む一番大きな筋肉、脚を反らせる大殿筋に効く。
➁クラムシェル(外旋筋)
横に寝て、手をついて上体を起こす。両ヒザを90度に曲げる。この状態から、上側の脚を貝殻(シェル)を開くように開閉。開いて3秒キープし、ゆっくり戻す。左右とも行う。骨盤の奥で、脚の骨と繋がる外旋筋に効く。慣れてきたら、両脚のモモにチューブを巻いて、負荷を高めよう。
➂アダクション(中殿筋)
➁と同じ姿勢から、上側の脚を、お尻のチカラで上げる。この際、体幹を固定して、カラダのラインに沿ってまっすぐ脚を上げる。骨盤の横から扇状に拡がる中殿筋に効く。ゆっくり上げて、3秒キープ。楽をして、腰を反らしたまま脚を上げると、お尻に効かなくなってしまうので注意しよう。