arbeee.netオープン記念インタビュー(後編)!
いよいよ迫る、東京2020大会を機に、日本は、私たちの暮らしは、どう変わるのか?
前回に引き続き、スポーツ庁の鈴木大地長官にお話を聞くべく、長官室を訪ねた。
「日本は広いので、ひとくくりには語れません(笑)。でも、街づくりの課題で言えば、大きく分けて、都会型と地方型の2つに分かれると思います。都会の課題は、“人はいるけれど、場所がない”。地方の課題は“場所はあるけれど、人がいない”ということです」
都会と地方、日本が変わるキーワードは“街、人、仕事”だという
スポーツ庁 鈴木大地長官
すずき・だいち/1967年生まれ。1986年ソウルオリンピックの金メダリスト(100メートル背泳ぎ)。日本水泳連盟会長、日本オリンピック委員会理事を経て、2015年に設置されたスポーツ庁の初代長官に就任。日課のトレーニングは、長官室がある13階までの階段上りに加え、日々のウォーキング、ジョギング、自体重でのエクササイズ、月1回の仲間との水泳。
“場所がない”都会にもスポーツの場が増える!
都会には、スポーツをする広い場所は少ない。
しかし、2020大会を機に、都会でも、スポーツをする場所が増えてゆくという。
「都会では、小中高の学校や、企業の遊休地など、街にある施設を、どんどん開放していただきます。公園も、カラダをしっかり動かせる場所にできるよう考えています」
東京都千代田区のある公園では、曜日や時間を指定して、子どもたちが思い切りカラダを動かせるように取り組んでいる例もある。
「“公園は誰のものか”という議論はありますが、子どもたちに、公園でガンガンカラダを動かしてもらうことは大切です。学校の開放も、地域スポーツクラブの人々が主体となって、指定管理の形で活用している事例があります」
なるほど“街、人、仕事”を結びつける工夫しだいで、場所は作れるのだ。
「小学校で、おじいさん、おばあさんが、運動していいんですよ。世代間の交流は、大事です。マナーやいたわり、思いやりを学ぶチャンスでもあります。お年寄りが子どもと接することで、カラダの免疫力も上がりますし(笑)。非常に有益です」
学校を開放するのでなく、指定管理を受けた地域スポーツクラブが間に入ることで、楽しく安全にスポーツができる、そんなサービスの可能性も広がるのだという。
「学校の雰囲気も変わると思います。学校に塀を作るのではなく、地域の学校を、みんなで守って、子どもたちも育ててゆく。そんな発想の転換もできます。スポーツを通じてコミュニティを作ってゆくことで、街のブランド力も高まると思います」
地方で、観光客を呼べる“武道ツーリズム”も広がる
地方には、広い土地があるが、それを有効活用する人材が不足しがちだ。
「今あるスポーツ施設を、もっと効率的に活用することが必要です。そのためにも、体育館の予約だとか、地域の中でもバラバラな情報を、使いやすくするシステムもあっていいと思います。私たちは、さらに、学校の部活や地域の活動をベースに、それにプラスした、“武道ツーリズム”というものも推進しています」
武道ツーリズムは、県立の武道館や、街や学校の武道場といった施設の空き時間などを有効活用し、地方に根差した人材を活かす、体験型の観光事業だ。
海外からの観光客も含めて、日本が誇る武道を、伝統ある場所で体感できる魅力がある。
「稽古をつけてもらう本気なものから、見てみたい、用具をつけて写真を撮りたい、というものまで、地域に観光客を呼び、お金を落としてもらえる可能性があります。なので、“おもてなしの精神”で、無料提供するのではなく、しっかり質の高いものにして、仕事としてお金をいただけるシステムにしたいですよね。もちろん、地方の魅力的な資産を活用できる、アウトドアスポーツを上手く運営してゆくことも大切です」
なるほど、“街、人、仕事”は、いろいろな問題解決に役立つキーワードだ。
誰もが働きやすいそんな会社が増えてくる!
「ラグビーワールドカップ、そして2020大会で、スポーツが持つ力に改めて気づき、理解をいただく企業の皆さんって、まだまだ出てくると思います。そこから、何らかの形でスポーツにかかわる企業が増えることも期待しています。私たちは、スポーツを通じて、さまざまな社会課題を解決することを目指しています。企業も同様に、スポーツを利用しながら、様々な価値を高めて欲しいと思います」
鈴木長官は、なかでも、企業によるパラスポーツ支援への期待を熱く語る。
「企業に、障がい者のアスリートがいることで、会社の一体感が生まれ、生産性さえ高まった例もあります。2020年が終わったから、雇用や契約をストップしてしまうのではなく、逆に採用するような会社が増えて欲しいですよね」
パラスポーツを通じて、多様性を認めあう“共生社会”に近づいてゆく。
「いろいろな人がいることで、はじめて、みんなの暮らしを互いに支え合う気持ちが生まれてくるのですから」
ボランティア活動にもっと理解のある世の中に
当然、スポーツを支える人も必要になる。
「もちろん、もっと増やしていきます。その意味でも、アスリートは、競技だけじゃダメです。スポーツをやりながら、学びの機会もしっかり取って、社会人として通用しなくてはなりません。競技団体を支える人物を、しっかり育てる必要があります」
大学スポーツの在り方にも、変革の波は確実に押し寄せているのだ。
さらにスポーツ庁では、ボランティアなど、支える人々のサポートにも取り組んでいる。
「審判の方を例にしても、自分の会社の有給休暇を使って、国際大会のジャッジをされている方がいます。さすがに金銭的なサポートは難しいのですが、所属先の企業にお礼をお伝えしたり、審判の方の表彰の機会を設けたり、活動を続けやすくなるように働きかけています」
2020大会は、ボランティアなどの支える人々の活動を、実際に目にする機会でもある。
「ボランティアという宝を、2020大会のレガシーとして残してゆきたいですね。今の中高生が、それを見て憧れるようになったら嬉しいです。好きな競技を手伝いたい、参加したいという気持ちを、もっともっと大事にしてゆきたいと思っています」
2020大会で、鈴木長官がいちばん楽しみにしているのは……
「2020大会を通じて、“スポーツっていいね”と、誰も感じる社会になっていることが、私の楽しみです。素晴らしい競技を見て、元気や感動として届き、いろいろな人たちが影響を受け、自分もやってみようという気持ちになる。オリンピック・パラリンピックの開催国は、国民みんながスポーツ好きになって、健康になることで、活力ある国になれるのです」
それが、つまり“スポーツの価値”が上がることだという。
「“金メダルを何個取った”だけがスポーツではなく、スポーツには、さまざまな社会の課題を解決したり、改善できたりするチカラがあります。スポーツを通じてビジネスが育ち、スポーツや運動やエクササイズが盛んになって国民が健康になり、企業などのコミュニティが一致団結したり、国際的な交流が増えたり……。まさに、さまざまな価値があると思うんです。2020大会を機に、スポーツに興味がなかった人も、興味を持ってもらえるように気持ちも変わっていると思っています。それが楽しみですね」
。